Kabuk Styleが語るAIと旅行の未来—WiT Japan 2025で示された業界の課題と展望
- 宣子 中島
- 4 日前
- 読了時間: 3分
Kabuk Style
2025年に東京で開催された国際的な旅行テクノロジーイベント「WiT Japan & North Asia 2025」に、日本を代表する4つのオンライン旅行会社が参加しました。JTB、楽天、旅行情報サイト「じゃらん」(運営はリクルート)、そして旅行サブスクリプションサービス「HafH(ハフ)」を運営するKabuK Styleの4社が登壇し、「AIの活用と未来の旅行のあり方」をテーマに活発な意見交換が行われました。
楽天は、AIを使ったカスタマーサービスを導入し、ユーザーの問い合わせ対応やサービスの質向上に取り組んでいます。今後はユーザーの行動データを活かして、さらに使いやすいサービスを目指す方針です。じゃらんは、AIによる対話システム「じゃらんAIチャット」を試験的に運用しており、予約につながる割合は良好ですが、まだ全面的には導入していません。JTBは、AIを活用した業務の自動化や価格設定、マーケティングの改善に力を入れている一方、社員の意識改革も進めています。
一方、HafHを運営するKabuK Styleの砂田憲治氏は、すでにAIを活用し価格やユーザー行動、キャンセル率を予測していると説明しました。特に日本の旅館に多い複雑な客室タイプの標準化に力を入れ、マッチング精度は約8割に達しており、これがグローバル展開にも対応できるレベルだと語りました。また、HafHはLINE上でAI旅行アシスタント「ハフっち」を提供し、宿泊施設や旅程の提案を簡単に行える仕組みを用意しています。砂田氏は、AIと他のシステムをスムーズにつなげるための統一したデータ通信ルール「MCP(Model Context Protocol)」の重要性も強調しました。
各社代表者は「10年後の旅行の姿」についても語りました。楽天の皆川尚久氏は、旅行の計画から予約までが一つの流れとして統合され、スマートフォンに頼らない新しい体験が主流になると予想します。JTBの岩田淳氏は、AIによる個別最適化が進む反面、あえてAIを使わない旅行を求める人も増えると考えています。リクルートの大野雅矢氏は、AIが旅行者と現地の観光事業者をつなげる重要な役割を担うものの、10年後の状況は予測が難しく、常に戦略の調整が必要だと述べました。砂田氏は、旅行事業者がデータを閉鎖し続ける限り、AIの力は十分に活かせないと指摘。業界全体でデータを共有し合う基盤がなければ、「情報の孤島」という現状を乗り越えられないと訴えました。
将来の旅行市場で活躍する新しいプレイヤーについて、各社はそれぞれの見解を示しました。楽天はAIに特化した新たなプラットフォームがユーザー体験の中心になると予測し、JTBはサプライヤー(宿泊施設など)による直接販売や予約をまとめる業者の存在感が増すと見ています。リクルートは、AIエージェントを使った予約システムが入口として重要になる一方、地域密着型のサービスも根強い支持を得続けるだろうと考えています。
砂田氏は、スウェーデン発の音楽配信サービスで、世界中で使われている音楽ストリーミングプラットフォーム「Spotify」を例に挙げ、「ユーザー側を主導する存在がいても、レコード会社のような重要な収益源は残る。旅行業界も二層構造になるだろう」と説明しました。さらに日本の旅館の多くが大手旅行会社に在庫(予約枠)を独占されているため、新しい小規模プラットフォームが成長しにくい現状も指摘。AIの進化がいくら速くても、商品がなければユーザーへの価値提供は限定的だと警鐘を鳴らしました。
今後も業界全体での連携と技術革新が進むことで、より便利で持続可能な旅行の未来が切り拓かれていくことが期待されます。

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